◆第9回◆

日本国憲法制定の意義(その3) 日本国憲法の歴史的意義

 今年の七月七日に発表された自民党新憲法起草委員会の憲法改正要綱案には、「新たな憲法前文」の作成指針として、「現行憲法に欠けている日本の国土、自然、歴史、文化など、国の生成発展についての記述を加え、国民が誇り得る前文とする」ことがうたわれています。では、日本国憲法は、果たして「誇り得る」に足りないものでしょうか。
 前回で述べたように、今の憲法九条は、第二次大戦の経験を踏まえて、国際社会と日本国民がこれこそ平和をもたらすものだとしてつかみ取ったものです。その歴史的意義は、どんなに強調してもしすぎることはありません。今回は、それ以外にも、日本国憲法は、日本と世界の歴史の中で、誇りうべき画期的なものであることを述べたいと思います。

1.基本的人権の保障 ベアテに伝わる心

 日本国憲法は、20条や89条によって、信教の自由を保障し、政治と宗教の厳格な分離を定めています。これによって、天皇家の宗教である神道を特別扱いし「信教の自由」に「安寧秩序を妨げず及び臣民たる義務に背かざる限りにおいて」という限定を設けていた明治憲法の体制を否定しました。
 また、憲法31条以下では、とてもていねいに刑事裁判における人権の保障が定められています。ここには、特高警察の拷問によって一晩で虐殺された小林多喜二のような悲劇をくりかえすまいとの誓いが込められています。
 家庭生活における個人の尊厳と男女平等をさだめた二四条の規定も重要です。これは、弱冠22歳のGHQ女性スタッフ、ベアテ・シロタ・ゴードンさんによって起案されたものでした。彼女は、少女時代の在日生活の経験から日本の女性たちの無権利状態を知っており、それを変えたいという想いからこの案をつくったのでした。日本の女性たちのこころが、彼女に伝わったといってもよいでしょう。

2.現代型憲法の姿 豊かな社会権保障

 男女平等を規定する24条もそうですが、平等の実現や貧困の解消をめざす社会権の規定が豊富に盛り込まれているのも、日本国憲法の特徴です。これは、「(第二次大)戦後生まれ」の憲法(たとえばイタリア、フランス)に一般的に見られる点ですが、この点でも日本国憲法は時代の先端を走っています。
 とくに、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めた25条の誕生は画期的です。18世紀から19世紀にかけて、人々の生活・くらしを国家や社会が支えるという考え方は希薄でした。日本国憲法は、国家による生活の保障は権利であると高らかにうたった、20世紀の現代型憲法なのです。

3.「平和的生存権」 主語は全世界国民

 人々が生きていくためには、平和な社会が必要です。日本国憲法は、前文で、戦争か平和かの問題を国家とその指導者まかせにするのではなく、権利の問題であるとしました。「全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」としたのがそれです。しかも主語は、「日本国民」ではなく「全世界の国民」です。世界に開かれた平和主義の憲法なのです。
 「歴史を踏まえる」とは、自国と世界のあゆみをふりかえり、その成果・到達点を確認しながら、失敗を反省し克服することを言うのでしょう。だとすれば、日本国憲法はしっかりと歴史を踏まえたもの、誇りうるものといえるのではないでしょうか。
(小沢隆一、2005年8月5日「平和新聞」1774号掲載)


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