◆第3回◆ 

なぜいま憲法「改正」なのか?
(その3)国民の世論は…

 政党や財界などが、今までになく声高に改憲を唱えるようになるなかで、一般の国民は、これをどう受け止めているのでしょうか。

1.改憲論と世論のギャップの背景
 政党・財界が改憲構想を続々と繰り出し、そしてそれを、マスコミがひんぱんに報道していることに、みなさんは、大いに危機感をかきたてられていることでしょう。しかし他方で、今の国民の世論は概して、この問題で沸き立っているわけではない、「冷めている」というのが、私の率直な実感です。
 一九九四年の十一月に改憲試案を発表して以降、この間一貫して改憲キャンペーンを張ってきた読売新聞が、今年の四月八日の朝刊に、憲法問題の全国世論調査(三月十二・十三日実施)を発表しました。そうした新聞のことですから、おそらく「九条改憲が趨勢」という結果を「期待」していたのかも知れません。しかし、実際の結果は、そのようなものではありませんでした。
 この調査で、憲法を「改正するほうがよい」とした回答者は、六一%にのぼっています。しかし、重要なのは、改正の中身です。たとえば、夫婦(選択)別姓制の導入の是非を問うときに、「民法改正は是か非か」というきき方はしないでしょう。それは、大雑把すぎて的はずれなきき方です。ところが、なぜか憲法に関しては、こうしたきき方が横行しています。憲法にせよ、普通の法律にせよ、その改正を論じる場合には、「何をどのように」という中身を問わなければ、意味がありません。
 それでは、この調査の回答者は、今の憲法のどこを改正すべきだと考えているのでしょうか。いくつでも複数回答をしてよいというこの問いで、トップは、「個人情報やプライバシーの保護」で三二%、「自衛のための軍隊の保持」は、二位ですが二九%でした。「九条改憲」を考えている人は、回答者の三分の一もいないのです。「自衛のための軍隊」というきき方ですから、これが「アメリカと一緒に戦争するための軍隊」なら、その数はもっと少なかったことでしょう。この調査では、「集団的自衛権」の容認のための憲法改正について、反対意見が賛成意見を上回っています(三二・三%対三〇・五%)。「九条改憲」の世論は、意外と少ないのです。

2.政治に影響与える主権者国民の意識
 こうした世論調査に接するたびに、みなさんは、不安になったり、逆に励まされたりすることがあると思います。しかし、マスコミによる調査は、あくまでもその会社が独自につくった項目によって行われ、そこには何らかの意図が働くこともあるでしょう。また、無作為抽出とはいえ面接や電話などの方法で行われる調査は、回答者にどの程度の情報と考える時間が確保されているか、よくわかりません。
 そうした調査は、人々の意識動向の測定としての意義はあるものの、それがすなわち「世論」であるとみてよいのでしょうか。「世論」とは、憲法の眼からすれば、主権者である国民の意識です。それは、国家権力とその担い手(政党・政治家や官僚などなど)と向き合いながら、彼らが繰り出す世論誘導によって、一方では影響を受けながら、他方でそうした策略に対して影響を及ぼしながら、変化しつつ形づくられていくものです。主権者としての国民の意識は、一方的に受け身的なものでは決してありません。世論は、政治に対して積極的に働きかけ、これに影響を与えてもきたのです。それは、戦後日本の平和、憲法九条をめぐる動向が赤裸々に物語っています。
 今年は戦後六十年。五十八回目の憲法記念日には、全国の多くの地域で「憲法を守れ」を掲げたつどいが開かれたことでしょう。本物の世論とは、こうして主権者が自発的に示すもののことだと思います。

(小沢隆一、2005年5月15日「平和新聞」1767号掲載)


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